u1row's blog

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『清陰星雨/中井久夫』読了

神戸新聞の連載をまとめたエッセイ集。知性と優しさが溢れる文章が心地よかった。

小ネタメモ

中医学の診察はもっぱら顔色と脈と舌だけに頼る。腹を重視するわが国の漢方と大いに違う。

・現代ギリシア人は古代ギリシアばかり賛美されるのにうんざりしている。マイモニデスや現代ギリシアの大詩人(カヴァフィス、セフィリス、エリティス、リッツォスなど)を知っていれば、それを生んだ民族への畏敬が生まれ、彼らにも喜ばれる。

・戦前のよきものはおおむね江戸期あるいはそれ以前に始まっているものだ。明治は森鷗外のいうとおり「いつも普請中」だった。

・(戦争では)劣勢国の方が一つ一つの武器を大きく作るのは法則のようなもので、よい例は戦艦「大和」である。

・日本では、憲法を大切に思う人は国旗が苦手で、憲法はどうかと思うひとが国旗が好きな傾向がある。

・私たちは欧米全体対日本という形で業績を比較して劣等感にさいなまれている傾向がある。それは高すぎるハードルというものだ。

・往診先の犬との会話について

日本語でも英語でもむろんギリシア語でもない。「きみ」とか「おうち」とか「心配」とか「きみの家族」とかいうものを思い浮かべる時に起こる感情の塊を、雲のようにふわりと心の中でつなぎ合わせているようである。犬から伝わってくる「言葉」もそういう雲である。

・いじめで自殺する子について

死は窮地からの脱出であり、加害者に与えられる最後の打撃であり、敗北した自分への自己嫌悪の解消であり、親の金を持ち出したり嘘をついた罪の清算であり、加害の加担者と傍観者への抗議である。一言にしていえば「これみてさとれ」という最後の意地である。

・すべての戦争はスマートに始まるが、スマートに終えるつもりで、ほとんどはそうならなかった。

・破綻は単一の原因でも起こりうる。しかし回復は主な条件が出揃わなければ起こりにくい。目を背けたい真実は、低い水準からの回復のほうが条件を揃えやすいことだ。戦後の復興の「易しさ」の一因はそこにあった。