u1row's blog

作曲、演奏、読書、アプリ制作・・・、生きた証を日々更新

『浮世の画家/カズオ・イシグロ』読了

太平洋戦争後の公職追放の余波で、もしくはそのすそ野ではこんなことが起きていたのかもしれないという想像力が生み出したストーリー。
戦前に国威発揚を促す絵により名をなした画家の戦後(1948-50)が描かれている。はじめのうちは、その舞台設定にひかれて読み進めたが、実際のテーマは社会的ではなく、戦争もあまり関係ないかもしれない。自分は、一種の芸術論のような感じで読んだ。
たぶん「わたし語り」で書かれているため、複数のテーマが折り重なっていて層を成し、読者の捉え方次第でどんな風にも読めるのかなと思った。
読み終えて自分なりに印象をまとめようと思った時に思い浮かんだのは、中崎タツヤの漫画。細かいところは違っているかもしれないが、縁側に座る老人のが十コマくらい描かれている。その間、老人は無表情だったり、悔しそうな顔をしたり、焦った表情をしたりと、同じ姿勢のまま時おり表情だけを変える。そこに、中年の女性(老人の娘?)が現れて尋ねる。「おじいちゃん、何をしてるの?」
すると老人はひと言。
「なーんもしとらん」

この老人に「わたし語り」をさせたら、この作品の画家と本質的には大差ない話をするかもしれない。あるいは、この画家も見ようによっては「なーんもしとらん」と言えるかもしれない。