u1row's blog

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『ナチスと精神分析官/ジャック エル ハイ』読了

ゲーリングやヘスといったナチスの幹部は、どれほど精神を病んでいたのか、あるいは病的な傾向を持っていたのか。ニュルンベルク裁判に出頭する前に彼らを診たアメリカ人精神科医ダグラス・ケリー。
彼の診立ては、彼自身の「ナチ気質を明らかにしたい」という欲求に反して、彼らだけに特有の病的気質のようなものはないというものだった。生まれつきの気質に関わらず、誰でもナチス同様の行為に及ぶ可能性があると。
これが結論かと思いきや、この本の主題は、精神科医ケリーのその後だった。
アメリカに帰ったケリーは、精神医学と犯罪学の分野で名を成し、メディアでも活躍する著名人となった。しかし、もともとの気質と仕事のストレスなどから、心を閉ざし激昂しやすい性格を強めていく。
ある日夫婦げんかが高じて、突発的に青酸カリを家族の目の前で飲み自殺してしまう。遺書もなく衝動的なものだったが、奇しくも彼が最も関心を抱き、自分との共通点も見出していた被験者ゲーリングと同じ方法による自殺だった。
ケリーが名をなすのと並行して、心の闇を深くしていく様を彼の長男の目線で捉えた描写が真に迫って切実で、他人事と思われなかった。
ナチ気質のような特異な病的傾向はないという彼の診立てには異論もあり、やはりナチス幹部には共通の病的気質があったとする説もあるらしい。
しかし、ケリーの後半生は、ある人間が為したこと(結果)を理由に、その内面を異常なものとして切り離すことは出来ないと思わせる無言の説得力を持っているように感じた。