u1row's blog

作曲、演奏、読書、アプリ制作・・・、生きた証を日々更新

『出口のない海/横山秀夫』読了

人間魚雷「回天」の乗組員として死と向き合った青年の物語。もっと息苦しくなるかと思ったが、そんなことはなかった。なぜだろう考えてみると、並木青年が、決して盲目ではなかった、つまり心の眼が見開かれていた青年として描かれているからかもしれない。
そこはフィクションで、この内面の描写にどこまでリアリティがあるのかは微妙だが、おかげでフィクションとして受けとめることができ、「回天」という実在の特攻兵器のおぞましさを直視せずに済んだのかもしれない。

並木青年が回天と向き合って到達した境地は、物語としてとてもいいなと思ったが、現実の人間はもっと時代にとらわれて、発想や思考ですらその枠組みを超えられないんじゃないかと思う。時代に「翻弄される」と言うが、時代によって人はゆらゆらと漂ったり流されたりするのではなく、実際には、時代は人の身動きをとめるのではないかと思う。

人は時代によって可能性を奪われる。奪われて残った可能性の中に何か希望を見いだそうとする。
残された可能性がたった一つになった時、それは「そのために生きる」生き甲斐であると同時に「そのために死ぬ」理由にもなる。
きな臭い昨今、青年にたったひとつの可能性しか残さない社会・時代を作らないことがとても大切だと思うのだが、むしろそっちに向かうことが望まれているような感じがする。