u1row's blog

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『研究不正 / 黒木登志夫』読了 その2

昨日の続き。

この本に出てくる42の事例の中で印象に残ったもの
事例1:大英帝国の誇り、ピルトダウン人(1912年 イギリス)
ドイツのネアンデルタール人、ハイデルベルグ人、フランスのクロマニヨン人。イギリスに人類の起源となる原人がいないわけがないという勝手な願望が生み出したのがピルトダウン人。クリケット用のバットに似た道具まで発見され「原人もクリケットを楽しんでいた。まさにイギリス人だ」と喝采した連中もいたのだとか・・・
バレバレの捏造でも、それが誰かの潜在的な欲望に合致すると簡単に騙されてしまうということだろう。
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事例14:韓国中を熱狂させたヒト卵子への核移植(2004年 韓国)
iPS細胞論文が発表される前、再生医療を飛躍的に進歩させる画期的な成功と言われた黄禹錫の研究。実は捏造だと発覚すると、黄氏を擁護する人々が「黄氏を貶める陰謀」説を唱えて大混乱となったらしい。驚いたのは、黄氏は唯一捏造ではなかったイヌのクローン技術で生き残り、捏造とわかったヒトのクローン技術で特許を取得。本人の研究は捏造だったが、将来同技術が発達した場合には自身の特許を行使できるようにしたのだとか。
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事例19:撤回論文数世界一、小説を書くがごとくねつ造(2012年 日本)
麻酔科医YF。論文の撤回数がダントツで世界一なのだとか。偶然だろうが2位も麻酔科医だとのこと。
216の論文のうち捏造のない論文は3報だけ、約20年間渡って、平均すると月1本のペースで英文の論文をでっち上げ専門誌に載せてきたという。「研究をデザインするだけでもたいへん」「考えられない創作力」と半ば感心する著者。YFを駆り立てるものは何だったんだろう、どういう人物なのか気になる。
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事例20:告発サイトが明らかにしたスター研究者の不正(2012年 日本)
東大分生研教授のSK。この分野で輝かしい実績をもつスター研究者だったという。不正が発覚したのはソーシャルメディアへの告発。不正自体も問題だが、研究室の運営にもパワハラ的なところがあったようで、実験を始める前に、ストーリーにあった画像を「仮置き」する習慣があり、これを院生に強圧的な指示のもと作らせていたのだとか。自身のキャリアだけでなく、彼のもとで研究者を志していた学生や院生のキャリアも台無しにしてしまったのだという。
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事例29:研究不正者の心理を書いた社会心理学者(2011年 オランダ)
オランダの社会心理学者スターペル。研究不正により職を失い学位を返上後、研究不正を告白する手記を発表したらしい。その一部が引用されている。データを改ざんする時の状況と心理を描いていて、小説のワンシーンのようでスリリングだ。たぶん自分を演出し、演技することに酔うようなところがある人なんだろう。この手記の最後の章の一部は、レイモンド・カーバーとジェイムス・ジョイスの文章の丸パクリなんだと言うから笑ってしまう。
「自分ではどうしようもない」性分なのか、「自分にはこれしかない」という開きなおりなのかどっちだろう。
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その他
ピアレビューとソーシャルメディアの対比が興味深かった。
ピアレビューでは見抜けなかった不正が、ソーシャルメディアを通じた匿名の告発などで暴かれる。
これではピアレビューは何のためにやっているのかという気がするが、ピアレビューには大切な役割があるという。
ピアレビューは、メリットレビューとも言われる。
つまり、ピアレビューは、論文のあら捜しが目的ではなく、その論文のサイエンスとしての意味や将来への価値を評価するという視点に立っている。ソーシャルメディアによる評価は、サイエンスとしての価値という視点はなく、問題の指摘と告発が目的である。著者は、ソーシャルメディアによる評価の価値と実績を認めたうえで、ここに限界があると言っている。
あら捜しからは将来につながる価値は生まれないということだろう。
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論文の撤回(retraction)の数と比率の分析も興味深い。
論文の訂正・撤回が全論文に占める割合は、戦後になって高まり、かなり変動した時期もあったが、1980年代からは、ほぼ0.6%の比率で一定しているという。
国別に比率を比較すると、日本はワースト5位。インド>イラン>韓国>中国>日本とアジアの国々がワーストを独占している。個人のワーストランキングでは、事例19の日本人の麻酔科医がダントツの1位、事例20の分子生物学者が7位に入っている。個人別でも日本が目立ってしまっているという。
STAP細胞騒動で、研究不正がクローズアップされたが、実は他にもこんなにもたくさんの国内の不正事例があったんだということに単純に驚いた。
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医学分野に不正が多く、数学や物理学は比較的少ないという。
医学は「現象に始まり現象に終わる」と言われるそうで、抽象論よりも目の前の具体的な問題に取り組むことがすべてなのだという。「医学部は数学のできる学生を入学させ、数学をできなくして卒業させる」と言われ、主観の入り込みやすい画像解析など、不正への誘惑が散らばっているのだとか。
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考古学や心理学などの例はあったが、人文系の不正事例があまり出てこないのは、数が少ないからなのか、あるいは著者の専門とはかけ離れているからなのかが気になった。
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ともかく、いろいろ考える材料がたくさんあって非常に読みごたえがあった。